令和元年度第1回取材記事
10年先を見据えて、製造業にも柔軟な働き方を導入
育児や介護といった事由がある社員限定でテレワークの1つである在宅勤務制度を導入し、社内検証を経て、対象者を拡大してきた住友電気工業(株)。これまでの取り組みや今後の拡大計画などについて、ダイバーシティ推進グループの方々へお話をうかがいました。また、実際に在宅勤務制度を利用している社員の方たちの声もご紹介します。

(左から)人事部 労政・ダイバーシティ部 ダイバーシティ推進グループ
三屋 ひとみさん、大野 真介さん
●徐々に対象を広げ、現在は自律的に働くことができる社員全員が利用可能な制度に
――在宅勤務制度導入の経緯をお聞かせください。
2014年頃からテレワークの1つである在宅勤務制度の検討を始め、まずは2015年10月にトライアルを実施しました。主に育児中の女性社員に声をかけ、本人と上司のペア10組に在宅勤務を試行してもらいました。
その結果、オフィス勤務と比べて在宅勤務でも生産性などが大きく変わる様子はなかったため、2016年7月に、妊娠・育児・介護という事由がある方に限った在宅勤務制度の導入を行いました。
2017年4月には、対象を傷病や障害を持った方へ拡大し、2018年1月には、当社独自のトライアルを実施し、約1000名弱が在宅勤務を行いました。このときのアンケートで、在宅勤務による業務上の支障は事前に準備すれば回避できるものが多く、利用を望む声も多かったため、2018年10月からは事由がある人に限らず、自律的に働ける社員全員に対象を拡大しました。
現在、在宅勤務制度は月5回まで可能です。たとえば、介護で遠方の実家に帰省する際、土日を含めて1週間滞在することができます。
――在宅勤務のシステムや利用方法についてお聞かせください。
会社で使っているパソコンを持って帰り、自宅の通信回線でVPN接続して共有サーバーにアクセスし、在宅勤務します。
在宅勤務制度の利用申請には事前のeラーニング受講を必須としており、申請が承認されれば年度末まで有効です。実際に利用する際は、在宅勤務実施前日までに上司にメールや口頭など何らかの形で伝え、承認をもらいます。利用当日、始業時と終業時に上司にメールし、終業時は業務報告も行います。
●在宅勤務制度の対象を広げ、より働きやすい環境に。課題は部署間の利用率の差
――在宅勤務制度導入によりこれまでに得られた効果は何ですか?
利用者からは、通勤時間が削減されて心身共に負担が軽減されたという声が一番多かったです。そして、小学生の子供を持つ社員からの反響が大きかったですね。
導入当初の在宅勤務は未就学児のいる社員しか使えなかったのですが、現在はそういった事由がなくなったため、学校行事など小学校へ行かなければならない日などに活用されているようです。実際、保育園より小学校のほうが行事などが多く、親が学校へ出向く機会が多いと聞いています。
また、有休と在宅勤務を組み合わせての利用が非常に好評です。当社は1時間単位で有給休暇を取得できる制度があり、時間単位の有休取得と組み合わせて利用することで、在宅勤務のメリットを感じるという声もあります。
――大野さん、三屋さんも実際に在宅勤務をされていますね。いかがですか?
大野さん:
非常に集中して仕事ができました。在宅勤務日は何の業務を行うか事前に考えるので、自分の業務管理についてあらためて見直すことにもなりました。ただ、当日は仕事に没頭できる環境のあまり、終業時には通常のオフィス勤務よりも疲労感を覚えました。今までであれば、通勤して出社し、業務を開始するまでの時間の中で仕事に臨む自分なりのリズムを作ってきましたので、在宅勤務時にもそうしたリズムを整えて臨みたいと思っています。
三屋さん:
自分が在宅勤務をすることそのものに不安はありません。私も集中力は上がりました。はじめは、私が在宅勤務をする時、部下が相談しづらいのではと気にはなりましたが、チャットで気軽に相談することや、在宅勤務日の前後に部下との対話の時間を設けることで、今のところ支障はありません。
――これまでの取り組みで課題と感じられたことは何ですか?
利用実績は部署によって差があり、現在は営業・研究開発・コーポレート部門での利用率が高くなっています。一方、製造現場に近い部署での利用率は低く、それは「利用したいけれど、職場の雰囲気などが阻害してできないのか」「業務の性質上、在宅勤務に向かないのか」などを今後分析しながら、利用条件を満たし、本人が希望するならば制度を利用できるような環境作りの施策を考えていきたいと思っています。

大阪本社内にある社内サテライトオフィスは、
集中して業務を行いたいときや出張者が予約制で利用できる。
●社内好事例を展開し、利用促進を図る
――今年度末までのテレワークの活用・拡大予定をお聞かせください。
2019年度末までに利用者300人を目標の一つとしていたところ、10月時点で500人を超える社員が利用しております。今後も更なる利用の促進と定着を図っていきたいと思います。これまでに利用申請した人数は約950人ですので、半数以上は実際に利用しています。利用者におけるライン長と部下との割合は半々ぐらいです。
育児や介護といった事由がある人に限らず、いろいろな働き方を認め、利用できることを少しずつ根付かせていきたいと考えています。自然災害での計画運休も増えており、在宅勤務は事業継続の手段ともなります。
従来通りの働き方や管理方法を続けることは簡単ですが、人口も減っており、10年先を見据えると、もっと柔軟な働き方を取り入れざるをえないと思います。スムーズな移行を目指して、上長に在宅勤務時のマネジメント経験を積んでもらいながら、着実に進めていこうとしているところです。
――在宅勤務制度の理解・推進について社内でどのような活動を行っていますか?
今年のテレワーク・デイズの期間中は、積極的な在宅勤務利用をキャンペーンとして呼びかけました。ライン長には趣旨を含めて複数回個別に通知し、上長が利用しないとなかなか根付かないということを伝えています。
通知には、在宅勤務制度を実際に活用している事例を添付したものもあります。なかなか自分の職場単体ではイメージしづらいかもしれないので、他の職場での事例を参考にしてほしいと思いました。
在宅勤務制度については、人事のホームページで詳細やFAQが確認できます。社内報でも、在宅勤務制度の社内好事例について伝えています。
■在宅勤務者へインタビュー
実際に在宅勤務を利用している社員の方々へお話をうかがいました。
●オフィス勤務と変わらずに在宅で仕事が行えた(山本さん)

自動車新領域研究開発センター 山本 祐輔さん
今年のテレワーク・デイズ期間に2回在宅勤務を行いました。上司や同僚との打ち合わせを必要としない特許関係の業務を予め集めておき、取り組みました。前日までに上司に作業計画を提出し、終業時にはその計画に対しての進捗を報告しました。オフィス勤務と在宅勤務とで、勤務する場所が変わることによる不便は特に感じませんでした。
実際に行ってみると、1時間程度の作業と見込んでいましたが、計画より早く終わることや、反対に計画より時間がかかる業務もありました。普段のオフィス勤務時には1時間単位の作業計画を立てて実績を振り返る機会があまりないため、作業効率を改めて意識する良い機会となりました。
●往復3時間半の通勤時間がなくなり、家庭での時間を多く持てた(泉さん)

自動車新領域研究開発センター グループ長 泉 達也さん
私は普段から出張を伴う業務が多く、出張先での隙間時間や移動時間等を活用しながら社外で仕事をすることに慣れています。したがって、今回のテレワーク・デイズ期間中の在宅勤務も特に支障なく行えました。通勤時間が往復3時間半かかるので、在宅勤務日は非常に身体が楽で、普段は妻が担当している子供の保育園の送迎をしたり、家事分担の割合を増やしたりするなど、家庭内のコミュニケーションのために時間を充てることができました。
業務上、部下と対面する機会を確保したいのと、対外的な業務にあたる機会も多いため、頻繁に在宅勤務するのは難しそうですが、予定を見て今後も利用したいと思います。